15. 心理学の研究と教育を考える
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1. 心理学らしさとは何か
1-1. 研究法の歴史から
心理学とそれ以外の学問の違いをどこに求めるか
問い方、答え方とは
説明したい一定のことがらについての着想
それをどう発展させ、どんな手法・ツールで説明するか
問い方、答え方のモデルが共有されれば1つの専門家集団になる
共有された心理学パラダイムで研究されたものは心理学、それ以外は心理学ではないという言い方がまずはできる
ただ、共有される方法論は変化・発展していく
方法論だけを基準にするのは乱暴過ぎる
たとえば、臨床の領域以外で「語り」をデータとして「質的心理学」という方法論が市民権を得てきたことなどはその典型 心理学の研究法が豊富化したということ
心理学は、生理学や物理学などから実験法や観察法などの研究法を借りて出発した これらの研究分野では、その分野独特の有力な研究法や統計解析技術が生まれ、近接諸科学とのすり合わせが頻繁に発生した
心が何なのかについて新しい提案が増える度に、有効な研究法や技法が開発され豊かになっていった
現在物増え続けている主な理由はこのためであると思われる
研究分野が拡大したこと
心理学者も所属する学部や学科の教育目標に沿った研究を求められる傾向があるので、学んだ研究法・技法が威力を発揮するか否かが問われる場面が出てくる
これは看護学部に所属する心理学者が看護心理学の研究テーマを見つけるように、研究分野が増えてくる一因になる
心理学研究に大きな影響を与えた人たち
研究分野や方法が拡大したもう一つの理由は、刺激的・啓発的な研究の出現と関わる
一例としてノーベル賞
ノーベル経済学賞(2002)
ノーベル経済学賞(1978)
生物学・動物行動学者であるが心理学に影響をもった人
ノーベル生理学・医学賞(1973)
ノーベル生理学・医学賞(1904)
偉人として
結果として投映法という心理検査法の理論的根拠を提供した 子供の知的発達研究に貢献
他の研究領域からの参入や影響が非常に大きいのも現在の心理学の特徴ではある
これらからも心理学の領域は拡大し、研究法や技法が多様になることは否定できない
職業的心理学者の集団、他の研究領域からの参入や影響の2つが研究法や技法が発展してきた歴史的な特徴であるといえる
1-2. 大学における心理学教育
大学で学ぶ2つの流れ
このリストは、学会誌に投稿したときに、査読者から論文の学術的な位置づけを明確にするように支持される典型的な参入パターンでもある
多くの心理学関連の学科では、観察法や実験法や質問紙法といった研究法の基礎演習の専門授業を準備して、続いて上級学年でゼミや卒業研究を行うような育成法を採用している
つまり、研究法と参入法を学習させる
他方、心理学を主専攻としない学部や学科で心理学を学ぶときには、研究法よりも心理学の成果の方を知識として教えられる事が多い
看護学、医学、経済学、体育学などと言った中に、心理学がどう関わるかが強調されることになる
2. 社会科学としてみた心理学
2-1. 3つの研究パラダイム
この世の森羅万象はすべて法則に則って生じ、滅している
社会現象も自然現象と同じように、帰納法と演繹法を用いればその法則性を明らかにし得る したがって社会科学の研究者は、自然科学の研究者と同様、客観的な目と論理的な思考を駆使して、現象を貫く法則性を見つけることに精を出すべきである
社会現象はランダムに1回限りの現象として生じる
したがってその中に自然科学のような法則性を見つけることは不可能である
よって、社会現象の研究者は、言語を用いて固有の現象を質的に記述し、了解し、解釈することに努力を傾注すべきである
社会的事象への方法論的アプローチの違いではなく、社会的文脈の中での研究者のポジショニングを強調する
実践主義の原則
1. 社会現象にアプローチしようとする研究者は、当該事象から倫理的、政治的に隔離されてはいない
2. したがって、どんな研究も価値中立ということはあり得ない
3. それゆえ研究者は部外者としてではなく、当事者として事象にかかわり、かつ自らの行う研究行為の倫理的、政治的意味を考えるべきである
2-2. 心理学を研究する目的
その目的は「真理の探求」と「実際的な問題の解決」を行うこと
一般に論理実証主義と解釈主義は「真理の探求」を、実践主義は「実際的な問題の解決」に主眼を置いているといわれる
方法論的パラダイムの垣根を超えて「真理の探求」と「実際的な問題の解決」の両方の達成、すなわち「研究と実践の統合」を目指すことは、心理学研究に今最も求められていること
教育心理学を例として
一時期、「教育心理学」が、研究のための研究になり、その成果や営みが何ら現場で顧みられることはないという「教育心理学の不毛性」についての議論がなされたことがあった 現在では、こうした不毛性論議を乗り越え、以下の方向性が生まれてきている
教育現象をだれにでもわかる形で共通の科学的言語で語っていこう(論理実証主義的)
その当事者性・意味の問題を常に問いながら進めていこう(解釈主義的)
この流れをさらに推し進めるにはフィールドでの「知」の探求(実践主義的)という基本姿勢が大切
教育というフィールドではいうまでもなく実践が根幹にあり、それが大きな社会的営為となっていることは疑いようがないから
産業・組織心理学を例として
論理実証主義に基づいて、産業場面で活躍する実務家に説得力のある科学的証拠を示す必要がある
それぞれにユニークな産業・起業・職場・従業員の課題や問題点を解釈主義によって質的に記述し、了解し、解釈する必要
経済活動が日々絶え間なく行われている産業場面を研究フィールドとする限り、「実践」を離れてのアプローチはありえない
ビジネス教育の現場でもこうした複合的なアプローチが必要
教材の作成はケースに登場する当事者があたかもそのケース教材の中にいるような「厚い記述」をすることが必要 出来上がったケースを教材として用い、学生との討議を実りあるものにするには、論理実証主義に裏打ちされた理論や証拠が大きな力を持つ
個別のケースはそれぞれにユニークであるが、ユニークなケースに通底する理論なり証拠を教員が示せないと、教室での議論は単なる雑談に終わってしまう
2-3. 実践家の目指すべき道
実践の成功例が将来の教育的営為にも役立つようにするためには以下の事が必要
成功に至った実践がどのような理論的基礎のもとに、どのような手続きによって介入が行われ、その結果としてどのような成果が得られたかを記述することが求められる
論理実証主義的に再現性のある実践を行い、記述する
解釈主義の立場に立てば、社会現象はそれに関係する当事者同士の主観的関係性の中にその本質が存在する
それゆえ、過去の成功例を将来の成功例へと繋げていくには、当事者が言語を用いて当該現象を質的に記述し、周囲のステークホルダーを納得させるに十分な「語り」を行う必要がある
3. 心理学研究法を学ぶということ
3-1. 内容、技術と方法
「車の運転」比喩
運転できている・できていないという目に見える部分(内容的部分)は、きちんと車を動かせるという「技術」に大きく依存する
交通法規は運転にまつわるその根拠で、方法論
これには「技術」も含まれる
技術や方法論の支えが合って初めて「運転」という現象・内容が得られる
心理学研究
「人の心の動き・それに付随する行動や現象をうまく説明する」という現象・内容は、そこに至るまでの技術や方法論が当然存在する
学習者はいきなりその「内容」のみの知識を得て心理学を語ったような気になることも可能
ここが自動車の運転との大きな違いで、方法論や技術がそれをもとに構成された「知識」と独立してとらえられる可能性がある
真の知識は、それが形成されるに至った方法や技術の習得を抜きにはありえない
3-2. 研究倫理の問題
人間を研究対象にする関係上「モノ」を扱うようなぞんざいな研究態度は決して認められない
多くの研究機関では「倫理綱領」を定め、そこから逸脱しない範囲内での研究が行われる
むしろ、研究を促進するために倫理綱領がある、と考えるべき
例えば、実験参加者とのトラブルで、個人だけでなく心理学研究全般が、社会的に抹殺されてしまうことにもなりかねない
そうならないための配慮が倫理綱領の設定